『5』第6号の発売から、あっという間に2カ月半が過ぎてしまいました。もうお手にとってご覧いただけたでしょうか。
今日は、6号の表紙について少しご紹介します。
今回の特集テーマは「The Anthropocene and Our Post-natural Future/アンスロポセンの光と影:人間と自然の未来」。アンスロポセンとは、人間が地球環境に大きな影響を与えるようになった時代を新しい地質年代として区分する用語です。そこから連想して、今号の表紙には、古い地層の中からなにかが発掘されるようなイメージの写真を使いたいと考えました。
上の写真は、表紙に使ったものです。目の粗い岩の表面に、白く「5」の文字が浮かびあがっています。
どうやって「5」の文字を岩の表面に浮かびあがらせるのかというと、その方法はとても単純です。「5」の形の型紙の上から霧吹きで水を吹きかけて、水がかかった周囲の色が黒っぽくなるようにしただけです。
表紙の写真とは異なる場所ですが、こんなふうに石の上に水を吹きかけたものを撮影しています。
型紙は、普通のコピー用紙の上に白いガムテープを貼って防水し、それを「5」の形に切り抜いてつくりました。防水といっても土台はただの紙なので、あまり何回も水をかけるとふやけてしまうのではないかと心配しましたが、やってみたらガムテープは案外頑丈だということがわかりました。
2016年8月の暑い盛り、編集室の宮田・松井・田中の3人がこの型紙と霧吹き、カメラを持って、撮影にちょうど良さそうな石や岩がある場所を探しに出かけました。
良さそうな雰囲気の石を見かけたら、すかさず型紙を置いて水を吹きかけてみます。少し水をかけるだけで色が劇的に変わる石もあれば、いくら水をかけても思うようにくっきりと色の差が出ない石もあり、どういう石が適しているのかをつかむのはなかなか難しいです。また、湿度の高い日だったので、一度水をかけてしまうとなかなか乾かず、やり直しはすぐにはできません。でも、慎重に試していくうちに、だんだんコツをつかめてきました。
苔が生えたコンクリートの表面の質感も魅力的に思えましたが、写真を撮ってみたら、やっぱりコンクリートはコンクリートでした。しかも自分の手の影が写っているという凡ミス。
当初の地層のイメージを逸脱して、なぜか木の切り株でも試してみたり。
木の切り株はけっこういい雰囲気だと思ったのですが、やはり「何万年も前の地層から発掘された!」感が出ないので、お蔵入りになりました。残念。
いい岩を探して歩きまわり、蚊に刺されまくっているうちに、だんだん何を撮りたいのかよくわからなくなってきて、石を見たら片っ端から水を吹きかけていくようになりました。その結果、我々3人が通ったあとには怪しい「5」の石碑のようなものがたくさんできてしまいました…。でも大丈夫、水なのでそのうち乾きます。
という試行錯誤を経て、今回も無事に表紙の写真ができあがりました。紙の本はいつか朽ち果ててしまいますが、そういうものを一生懸命つくるのも悪くないのではないかと感じます。今回撮影した石のうちのいくつかは1万年くらい後にも地層に埋もれてまだ存在しているかもしれませんが、本の方は跡形もないんだろうなと思うと、自分たちがつくっているものは一体なんなのか、不思議な気がしてきてしまいます。
Masako Miyata / 宮田雅子