2017年6月に刊行された『5』第7号、もうご覧いただけたでしょうか。

今回の特集タイトルは「What’s Your Next Move?/次の一手はなにか」。本誌編集委員の3人と国内外16人のさまざまな領域の方々が、現在の状況に対するそれぞれの「次の一手」を語っています。 

今日は、その第7号の表紙などに使った写真について、本誌のデザインを担当している宮田が制作過程をご紹介します。

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「次の一手」という言葉から連想されるのはチェスではないかということで、表紙には上のような写真を使いました。背景に「5」の字があり、その手前にチェスの駒が並んでいます。

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撮影の前に、まず構図をおおまかに決めておきます。表紙や特集扉ページに入る文字のスペースを確保しておくこと、チェスの駒にピントを合わせると存在感が出すぎてしまうので、少し手前に置いてぼかしたいことなどを、あらかじめ決めておきます。

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なんとなくこの方向で撮影できそうな気がしてきたので、チェス盤を購入。ポーランド製だという木製のチェス盤をネットで注文しました。届いたものをさっそく箱から出してみると、なかなかの重厚感があります。

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チェス盤は、駒のケースにもなっています。ひとつひとつきれいに並んで納められている様子は、なんとなく宝石箱のようで、手にとるのがもったいないくらいです。…が、いつまでも眺めているわけにもいかないので、ひとつつまみ上げてみると、適度な重みがあり、しっくりと手になじむ感触でした。駒の底面にはフェルトが貼られていて、盤面に置いたときにはコトンとやわらかい音がします。

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本番の撮影前のひと手間。背景に「5」の字を貼って、まずはイメージどおりの構図で撮影できそうかどうかを確認します。手前に置いた駒の大きさとボケかたを見て、背景の壁との距離を調節しながら、適度な配置をさぐります。

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次に用意したのは、ジェッソ、刷毛、水、紙やすり、パステル。ジェッソというのは、絵画でおもにアクリル絵具などと一緒に使う地塗り剤で、絵具の定着や発色の補助のために使うものです。マットな質感があるので、今回は白っぽい背景をつくるために使用しました。紙やすりとパステルは、白い背景を少し汚れた感じにするときに使います。

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板段ボールの上に「5」の形に切り抜いた紙を貼り、その上からジェッソを薄めに重ね塗りしていきます。

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まずは一重に塗り終わったところ。乾かしてから数回、重ね塗りしていきます。

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文字の茶色がどのくらい隠れるまで塗れば良いのか、様子を見ながら作業していき、背景を完成させました。

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こうして完成した背景を使って、撮影をはじめます。愛知淑徳大学で実習助手をしている村山季里子さんが手伝ってくれました。場所は、研究室がある建物の廊下の端っこです。こんな普通の場所ですが、三脚を立てて照明をつければ、立派な撮影場所に早変わり。

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チェスの駒を並べていきます。宮田は手前でカメラを構え、駒の配置を村山さんが担当しました。構図を確認しながら、「その…、白い馬のやつ…(ナイトのこと)を、もう少し右に」「その…、黒い丸いやつ…(ポーンのこと)を、少し奥に」など、素人丸出しな呼び方をしても、村山さんは動じないでちゃんと駒の位置を調整してくれます。白のクイーンを「しめじみたいなやつ」、黒のビショップを「木の胡椒入れみたいなやつ」と呼んでも、どの駒のことを言っているのか瞬時に理解してくれる村山さん。頼りになります。

「しめじ」(左)と、「胡椒入れ」(右)。

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ちなみに、村山さんの方からこちらを見ると…

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こんな様子です。撮影にめちゃくちゃ集中しています。

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端から見ると変な姿勢ですが、これでも真面目に撮影しているのです。寝そべっているあたりはちょうど隣の先生の研究室のドアの真ん前なのですが、撮影している途中でたまたまその先生が研究室から出てきて、だいぶ驚かせてしまいました…。失礼しました。

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チェスの盤面の上に駒を載せたカットも撮影します。最終的には、背景を白だけのものに替えて、特集扉ページに使用しました。

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チェスのルールを知らないので、実際にゲームの途中でこういう駒の配置になることがあり得るのかどうかも、よくわかりません。ネットでチェスのルールを調べて読んでみたものの、付け焼き刃すぎて、結局あっているのかどうかはよくわからないままでした。

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ずっと同じ姿勢で真剣に作業していたので、足がしびれている村山さん。

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最後に、セルフタイマーで記念撮影。今回、最初に思っていたとおりの写真を撮れたのは、村山さんの協力のおかげです。おつかれさまでした。そして、ドアの前で怪しい恰好で撮影をしていても嫌な顔もせずに場所を提供してくださった隣の研究室の吉田先生、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。

(おまけ)
p.047で使っているチェス盤の写真は、別日に撮ったものです。

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チェスの盤面に、上からプロジェクタで「5」の字を投影して撮影しています。

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このときは教室の蛍光灯の下で撮っていたので、盤面全体がなかなか均一な光の加減にならず、また駒の影がいろいろな方向に出て不自然になってしまうのを防ぐ必要もあり、試行錯誤が必要でした。

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蛍光灯の光がダイレクトに盤面に当たらないように、光を遮るための段ボールの板を背中で支えながら、プロジェクタの位置を調節する村山さん。真面目にやってるはずなのに、やはり変な恰好に見えてしまうところがなんとも…。

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そんなこんなで、長い道のりを経て、今号もようやく完成しました。今回は「What’s Your Next Move?/次の一手はなにか」という特集タイトルから連想してチェスの駒をモチーフに使いました。チェスのゲームは途中で降りることもできますが、われわれの人生は1回かぎり。だからこそ、みんなが真剣に「次の一手」を考えないといけないんですね。

ちなみに、撮影のために購入したチェス盤を無駄にしないように、あとでゆっくりルールを覚えて、今後はチェスを趣味にしようかななどと考えていたのですが、結局撮影のあとはずっと棚にしまいっぱなしになってしまっています…。

Masako Miyata / 宮田雅子